おー、久しぶり!

おー、久しぶり!



しかし、なーにが久しぶりだよ、オレたち、ここ数か月、毎日のようにしゃべってるじゃんよ

そうだっけ

しらばっくれるな。とはいえ、まあ、今日はよそゆきの日、ってことで今年もよろしくな。恒例の年末年始放談だろ?

ああ、そうだ、毎年やってるからな。やめる理由もないだろ

ふだんしゃべってるときは、オレがだいたい強くて理性的で批判的、そしておまえは弱っちくて心情に流されるわりと情けないヤツ、という役回りだけど、今日はどうする?

いや、今日はもともとの対話にもどって、対等で行こう

それにしても、あんまり話すこともないな。適当に切り上げようぜ

うん、そうだな。とはいえ、オレたちの2025年はまさに激動だったんだけどな

その話はいつもしてるから、それ以外って言うと、そうだな、今年の始まりは、突然オレたち、日本語オリジナル曲を作って、アルバムづくりに夢中になっただろ

地下鉄ライダーな? いや、われながらよくあそこまで来る日も来る日もやってたもんだよ。おかげで十曲完成させて、CDに手焼きして、ジャケット作って、みなにタダで配って、サイトも作ったもんな

おまえさあ、あのオリジナル、ちょっと自信があって、これでなんか起こるかも、って少し期待したろ

したした。なーんにも起こらなかったけどな。いくつかの内輪ウケがあっただけで、今なんか、あれって、あんまり無かったことになってる

残念か?

いや。宣伝もなにもしないし、みなに配ったのも最初だけ。いまじゃほとんど持ち歩きもしてないし。少しはプロモーション考えたんだが、そのままになってるし。TikTokとかで展開しようとは思ったんだがな

ま、いいや、いつものおまえを詮索しても仕方ない。で、当の音楽の方は?

うん。日本語で曲を作って歌うってのがこれほど楽しいことだと思わなかった。これはいい趣味だわー ポイントはブルースはやらない、ということだな、オレの場合

すべてブルース以外と

うん、実際、その十曲は、ロックンロール、ロック、ニューウェイブ、ファンク、プログレ、アバンギャルド、音頭、レゲエ、ソウルバラード、フォークだもんな。ブルースは、なし

日本語のブルースはどうもオレたちの美学が許さないんだな。自分でやるのはもちろん、人のを聴いてても、オレの感覚ではどうも、素直に聴けたことない、実は正直に言うと。最近は日本語ブルースがすごく増えて定着してるので、そこらじゅうでやってるの見るけど、あー、またかー、ってどうしても思っちゃうな

そんな正直に言っていいの? お友だちたくさんいるのに

ま、えーんでねーの? なにを思ってもその人の自由だし。別にそれだから、日本語ブルース止めろ、って言うことは絶対ないし。というか、それどころか、オレが日本語オリジナルにハマったのと、日本語ブルースやってる人の気持ちはたぶん、まったく同じだよ

なら万々歳だ。なんつったって、おまえ、だいたい新年早々、日本語ブルース地獄変の企画で特別オープニングアクトやることになってるじゃん

そうなんだよ! あれは、Yくんにやられたわ。オレが泥酔してる隙をついて、林さんオープニングアクトやってください、とか言われて、オレ、いーよー、とかテキトーに返事しちゃった

そしたらホントにやることになった。おまえどーすんの? 

地下鉄ライダーから5曲ほど生ギターをじゃんじゃかかきならして歌いますがな

なんか、チンドン屋みたいな衣装で出ないと恥ずかしすぎるシチュエーションだな。衣装買ったのか?

買ってない。プライベートライフがそれどころじゃなくてよ

ま、いずれにせよヤケクソで楽しんできなさいな。ところで今年は、そのYくんの企画ライブが上野だったせいで、なんか上野づいてたな

そうだなあ、上野。考えてみると、かなり久しぶりに出入りしたよ。むかしはよく行ったものだけどね。ほとんどは美術館と博物館のためだったが

オレたちが上野のゴッホ展で彼のホンモノの画布を初めて見て、目くるめく感動と、魂が昇天するような経験をしたのが、忘れもしない1985年か。いまからなんと40年前だな

そう。25歳のときだ。そういや、上野公園と谷中の墓地が徒歩距離だ、っていままで知らなかったな

そうそう。なんだかあそこ風景が下町風でいいよなあ

谷中の墓地も、大昔に行ってなんともいえない平穏な気持ちになったっけなあ。そっちの方はたぶん30年前ぐらいだろ

ああ。目くるめく昇天も、平穏すぎる平穏も、蘇るときは蘇るだろうね、奇跡が起こればね

まあ、そんなことが起こるなんてことは、そうそうはないよ。一生に数えるほどさ

かくあらしめたまえ、アーメン、アーメン、か

そう。カラマーゾフの兄弟。オレたち、あの修道僧たちの、あの締めの言葉、大好きだったろ。で、現実でも、なにかというと、かくあらしめたまえ、アーメン、アーメン、って言ってたっけ。誰にも理解されたことがないが

ハハハ 理解されないどころか、怪しいヤツと思われて終わりだな

さて、実は今はまだ30日なんだよな。どうする? これ

まあ、いいじゃん、気が向いたらまたしゃべり足して、来年になるときにまたしゃべればいいじゃん

恒例の、来年の抱負をおねがいします。抱負なんていう下らんものは無い! とかを繰り返せばいいか。ハハハ

そーいうこと

(中座)

日本語オリジナル以外のトピックスは?

えーと、なんだっけな、オレ、なにしてたんだっけ。カレンダー見直すか

なんで忘れるかなあ、ロバート・ジョンソン研究書、出しただろが

そうだ! 忘れとった。だいたいCD作ったあとすぐぐらいの4月ごろから始めた気がするな。もっとも、研究それ自体はすでに十年はやっていたのだが

ああ。でも、今年に出版を急いだ、その理由はAIだろ

そう。AI。AIがたった三年でここまで来ただろう? おそらくかなり近い将来、研究、そして研究書、という存在が無意味になるだろうと思ってね。せっかくノロノロ十年やったんだから、お蔵入りにするのはもったいなく、それをまとめて出版して手を放し、あとはAIが何しようが野となれ山となれ、を決め込むつもりだった

出版社もいちおう探したよな。何社ぐらい?

6社だったかな。いろいろ手を回してくれた人には感謝だが、結局、ぜんぶ断られた。理由は、採算が取れない、だったな

うん。ま、順当でしょ。しかし、ここでもおまえ、地下鉄ライダーCDのときと同じで、たいした努力しなかったな。おまえって、なんで世の中に出て頭角を現す努力、しないの? ほとんどわざとしてねえのかよ、と勘ぐるぜ

わからん。ま、いいじゃん。プライベートライフが激しくて、手が回らなかったんだよ

言い訳か。でも、そのプライベートのあれこれは、おまえの活動を制限するどころか促進しそうな要素があるはずだがなあ。それにさあ、おまえ、来年になると、一段、貧乏になるんだから、ちゃんと社会で最低限でも稼げる土台を作った方がいいぜ

分かってるよ。分かってるけど、できない

いつものことか、呆れるな。おまえいったい人生で、なにがしたいの?

分かってればこんな独り言だかなんだかわからん雑談はしてねえよ

なぜ、そんなに、目的志向を嫌うんだ

しかしさあ、これさあ、年末放談だろ。なんでオレたち自身を切り刻む方向へ話を持っていくんだよ。自分のクビを絞めてそんなに楽しいか、バカ

例によってオレがオレにバカと言われても屁でもないな。ただ、一理は、ある。自分のことはもう、止めよう

たのむぜ

ロバートの研究書は結局アマゾンから出しちゃったけど、ま、とにかく、ロバートの研究書を出して、どう? せいせいした?

うん。ようやく区切りがついて、本当にうれしいよ。ヴァン・ゴッホに続いて今度はロバートへの感謝の標さ。オレね、その感謝をささげることがいちばん自分に大切なことなんだよ。それ以外のことは、実は、ほぼ、どうでもいい

カッコいいこと言ってるけど、ホントにそうなのか? なんかウソついてない?

まあ、おまえはオレなんで知ってのとおりだが、これが、まったく完全にウソがないところが、驚きだ。われながら

やっぱロマン派かあ

そういうことになるな。たださあ、バカげた話だが、そういう意味では、推し、とかやってるオタク連も、同じ心情なんだろうな、って思ったりする。この人のことを本当に理解しているのは世界でたったひとり自分だけだ、みたいな

ハハハ しかし、ゴッホやロバート・ジョンソンをアイドルやらアニメやらと同列に語るのは、よい趣味とは、言えませんなあ

そっか。じゃあ、訂正する。オタク連なんか、オレの知ったこっちゃない

いきなり真逆に出るなよ

オレはさあ、ホントに両手に余るほどのなにかを自分に与えてくれた場合、受け取った愛を、感謝とともに、返したくて仕方なくなる、ということだよ。ロマン派風に言うと

ま、ちょっときれいごとに聞こえるんで、そのへんにしとくんだな。それはもういいとして、で、続編とか、なんか次の構想、あるの?

無い。それはもう、まったくない。もちろん研究なので、将来の課題はたくさんある。でも、もう、オレは一切やらない。あれがオレの最終形で、オレの研究者人生の最後の研究書。もうオレ、研究なんか、しない

じゃ、ブルース演奏に集中すんのね

ま、そんなところだ

そっちの方の、なんか、勝算、あるの?

勝算ねえ。あんまり無いなあ。でも、まあ、地道にやるさ。いまやオレ、人生が完全にブルースだからさ。オレに本当のブルースが到来したのは20年前に家出して三宿のアパートに一年住んでたとき。そして、2回目のブルースの到来が今年2025年だった。もう、オレはこれで、ブルースだけで言えば、完結した。これ以上、なにもいらない

ふーん。なに言ってるか分かんないけど、いや、オレはおまえだから知ってるけど、読んでる人は分からないだろうな

ま、とにかく、45年以上ブルースを演奏し続けてきたけど、66歳になってようやく本当にブルースになった、ってことよ。いいじゃん

別にいいよ。そういう運命と

そういうこと

さて、意外と当たり障りないことでも会話、続くな

そりゃ、そうさ、これって、ビール駄弁みたいなもんだもん。ビール飲んでないけど

ま、あさっての元旦、コイケの家で呑み始め、といきましょ

だな。じゃあ、これ、また明日な。明日は大晦日。そこで新年明けといこうぜ

そうしよう

(大晦日の夜遅く)

さて、もうすぐ新年だ。あと1時間。新年までは起きてるか

うん。おまえさっき、ホントに久しぶりに作ったどぶろくを濾してたな

友人へのみやげのつもりだったが、さっき呑んだら、やっぱり、これ、うまいよ。もう一杯だけ、呑んじゃおうか、どう?

いいんじゃない?

これを初めて作ったのはもうだいぶ前だな。スウェーデンに住んでた時だ。日本から米と麹を持っていって、最初は甘酒とか作ってたけど、ある日ふと気づいて、これに酵母を入れれば酒だよなあ、と。それでドライイーストを買ってきて、加えてみた

そうそう。いまでも思い出すよ。透明の広口ガラス瓶の中で、泡が出て、ゆっくりと対流が始まって、その生き物のように動く、真っ白な液体の美しさ、そして、その香りの清らかさ

オレたち、三日待って濾して呑んだけど、泣いたよな

うん、泣いた。酒に感動して泣くなんて、おかしいが、故郷の日本から遠く離れたスウェーデンで、まるで日本の神様がオレたちのもとに降りて来てくれたみたいに感じたんだっけ

その感動が去って、しばらくして、今度は、なぜ日本が一般民の酒の醸造を禁止しているかを調べて、怒ったっけなあ。税金をふんだくるための、政府にとってはただの金のための法律だ。しかも制定されたのは明治時代。いまでは形骸化してる。でも法律は改訂されない

うん。オレたちにとってみればあの法律は日本の神への冒涜だよ。したがって、最も罪が重い

まあ、いい、呪詛は止めとこう。もうすぐめでたい新年だしな

ああ。さて、それでは恒例の、来年の抱負と行きますか。なんかあるのか? え? 抱負がよ

抱負なんていう下らんものは無い!

と、答えるお約束と。まあいいや、とにかく、来年、おまえどーすんの? いまこんな状態で。66歳にもなって

そうだなあ、例年通り、特にどうするか決めてもいないし、なんにもないんだがな

でも、おまえ、けっこう楽観してるだろ

ああ。してる。オレがこんなとき、いつも感じるのは、見晴るかす未来。未来に、希望という具体性ゼロのモノ以外に、なにもない状態。すなわち、自由

希望に具体性がないのがおまえらしい

自由ってさあ、本来は、なにも決まってない状態だと思わないか。見えないのが未来であって、見えてしまったらそれは未来とは言えない。それは現在の延長に過ぎないだろ

じゃあ希望は? 希望というのはふつう、未来にあって欲しいと願う姿を抱くものだろう

そう。で、オレの未来は完全な見えないものだろ? だからオレの希望には具体性がゼロなんだよ。オレにとっての希望は、なにか、具体的な事象とぜんぜん違う、なんかのシンボルみたいなものだよ

そうか。ま、いい、哲学じみてきたから止めようぜ。で、来年どーすんの?

そうねえ。いや、実は、今回ばかりは本当に決まってないんだよ。これ、シャレじゃないのよ

哲学ぶっちゃいるが、ホントにそういう状態ってことね? しかし、それは、なんというか、オレたち前期高齢者としては、人生が不定だなんて、破格に恵まれた状態じゃないか?

まあね。特に今年は激動だったから、その延長の来年は、もう、わけわからず

で、どういう気持ちなの?

すごーくいい気分

ホントか?

ホントだよ

まあ、いいや。さて、そうこうしてるうちにいま、新年になったな。2026年だ

そっか。おめでとう。まあ、今年もよろしくな

ああ、よろしくな

オレたちのオフィシャル会話は、どうも新年になっても、そうそう盛り上がらんなあ

そうだなあ、さっき呑んだどぶろくが効いてきて、ぼーっとなっちゃった

寝るか

そうしようよ。12時すぎの深夜だし。明日は昼から男二人で呑みだし

そうだな。でもなんだか、オレたち沈んで見えるとはいえ、実際はいい気分なんだろ? さっきそう言ってた

うん。きっと2026年はココロが飛び立つ年になるよ

お。ずいぶんポジティブだな、おまえっぽくない

へへへ かくあらしめたまえ、アーメン、アーメン、さ

カラマーゾフの兄弟で締めか

寝るぞ!

オヤスミ!



新どうでもいいこと36